はじめに
はじめまして、ビビドット (@vividot) | Twitterと申します。
本記事では、Uniswap v3のLPを自動管理するためのサービスについて紹介します。
呼び方はAutomated Liquidity ManagerとかVaultとか色々ありますが、本記事ではVaultで統一したいと思います。
Uniswap v3 Vaultは、v3のLPにおけるリバランス及び複利運用をLP Feeの一部を報酬として代わりに実行してくれます。
リバランスに関しては後述しますが、手間もガス代もかかるため、自分みたいなお金のないDeFiユーザにはVaultがおすすめです。
注意点として、本記事の内容は執筆した6月27日-7月3日時点の情報によります。
戦略等は変わる可能性が非常に高いため、すぐ時代遅れな情報になるかもしれませんが、運用の一助となれば幸いです。
7/5 追記
また、本文に入る前に、私が一連のプロダクトを応援していることを明確にしておきたいと思います。
私はVaultをリバランスの戦略に応じてパフォーマンスが変わることからUniswap v3に限定した投資ファンドとして捉えています。
さらに、投資ファンドには透明性が必要だと考えているため、この記事を書き始めました。
リバランスってなんぞや
Uniswap v3では狭めのレンジで流動性を供給することでv2より多くの手数料を稼ぐことができます。
そのため、手数料を稼ぎたい人は現在の価格に近い価格帯(以降、レンジ)で流動性の供給を行います。 結果、流動性は次の図のように現在の価格周辺で山のような形を描くことが多いです。
一方、価格がレンジを外れた場合、流動性供給者は手数料収入を得ることができなくなります。 つまり、ユーザは価格がレンジに戻ってくるのを待つか、一度流動性を抜いて別のレンジで再度流動性を供給する必要があります。
そして、後者のことをリバランスと呼ぶのですが、それをみんなの分まとめてやっちゃおうぜっていうのがv3のvaultの目的です。
また、Vaultに共通するメリットとしてそれぞれのVaultが発行するLPトークンはERC-20の形にすることができるため、担保や流動性マイニングなどに使いやすいことが挙げられます。
リバランス戦略の整理
Vaultの紹介に入る前に、Uniswap v3のLPはリバランスによってリターンが変わってくるため、最初にリバランスの戦略について整理したいと思います。
リバランスの方法
後述するCharm Financeの言葉を借りれば、リバランスの方法にはパッシブリバランスとアクティブリバランスの2つがあります。
「アクティブリバランス」とは、リバランスの際に管理するトークンの量をスワップを行うことで整えて新しい1つのレンジで流動性供給を行う方法です。 リバランス毎に少額ではあるもののスワップの手数料がかかるというデメリットがあります。
一方「パッシブリバランス」はリバランスの際にスワップを行わず、管理するトークンで可能な限り流動性を提供した後、残ったトークンを片面流動性として提供します。 片面流動性というとよく分からないですが、要は指値注文と同じで、余ったトークンを余っていないトークンに変えるようなレンジでの流動性供給です。
例えば、以下の図はVaultの管理下に2500USDCと1ETHがあった時に、1ETHと2000USDCで流動性を供給し、余った500USDCで片面流動性を提供したイメージを図示したものです。
この時ETHの価格が2000USDから1750USDにかけて変動すると、片面流動性部分が機能して余ったUSDCを徐々にETHに変えていきます。
リバランスのためにスワップしないので手数料がかからないというメリットがある一方、相場がブル/ベアのどちらかに変動し続ける相場が長く続くと得られる手数料がアクティブリバランスと比べて減少します(片面流動性部分が機能しない&両面部分の流動性も減るため)。
レンジの決め方
リバランスにおけるレンジの決め方は、リバランスの方法以上に重要です。
手数料収入だけを考えて理想的なことを書くと、リバランスが1日1回であれば24時間後までに値動きする価格帯をレンジにするのが最適です(厳密には価格帯で均等にスワップが行われるなどの仮定が足りないし、どう値動きするかは神様しか分からない)。
ILだけを考えて理想的なことを書くと、限りなく広いレンジにするのが最適です。
そのため、各Vaultの開発チームが様々なアプローチでレンジを決定しています。 ただし、結局どのアプローチが良いパフォーマンスになるかも蓋を開けてみないと分からない話ではあります。
手数料
俗に言うパフォーマンスフィーが主流で、Uniswap v3の手数料収入(LP Fee)から徴収されます。
手数料はリバランスを行うガス代やガバナンストークンのバイバックなどに利用されますが、注意しなければいけないのは手数料は戦略を加味して考慮する必要があるということです。
例えば、Vault1は戦略として広いレンジ(LP Fee少・IL小)、Vault2は狭いレンジ(LP Fee多・IL大)を採用しているとします。 このとき、Vault1とVault2の手数料が同じ10%で、パフォーマンス(LP Fee - IL)も同一だとすると、Vault2の方が支払う手数料が多くなり、ユーザとしては好ましくありません。
リバランスのタイミング
今後競合が増えてきた時は「リバランスを行うタイミング」も重要となってくる可能性があります。 なぜかというと、リバランスを行うタイミングは手数料収入の複利を行うタイミングでもあり、ILを受け入れるタイミングでもあるからです。
他にもパッシブリバランスの片面流動性部分は相場が一方向に動くと完全に役に立たなくなります。 そこでリバランスを行うと、再度現在の価格をもとに片面流動性が張られるので手数料収入が入りやすくなると考えられます。 ただし、やりすぎると片面部分で「安く売って高く買う」みたいなことが起こるのでデメリットもあると思います。
Vaultの紹介
1. Charm Finance(Alpha Vault)
Alpha vaultはv3のローンチの2日後の5月7日にv0をローンチした元祖Vaultです。
先日、監査に通ったため7月2日に上限100万ドルのVaultを新しく2つローンチしました(既に埋まりました)。
リバランスの方法:パッシブリバランス
レンジ:TWAPを中心に、開発チームが指定するレンジ幅
手数料:手数料収入の5%
提供するVaultの1つであるUSDT-ETHのレンジの推移を示したのが次のチャートです。濃い水色がベースとなる流動性、薄い水色が片面流動性です。
ここから読み取れることとしては、広めのレンジによってILを抑え堅実に稼ごうといったところでしょうか。相場な急激に変動した際にもダメージが少ないと考えられます。
ちなみにレンジ幅についてはバックテストによって決めているとのことです。
2. Visor Finance(Active Liquidity Management)
Visor FinanceのActive Liquidity Managementは5月18日にベータ版をローンチしました。 また、Gamma Strategiesという組織を立ち上げており、戦略の研究に対して資金提供を行っています(実態は不明)。
リバランスの方法:パッシブリバランス(適宜スワップも行う)
レンジ:ボリンジャーバンドをもとにしたレンジ幅
手数料:手数料収入の10%($VISRのバイバックに使用)
Visor Financeはサイトでレンジを表示しています。薄くて見にくいですが灰色でボリンジャーバンドが表示されていてカーソルをあわせるとボリンジャーバンドに合わせてレンジが設定されているように読み取れます。
しかし、同様にUSDT-ETHのレンジをオンチェーンのデータから取得して筆者が作成したのが次のチャートです。濃い緑色がベースとなる流動性、薄い緑色が片面流動性です。
一目瞭然ですが明らかに異なっていて、あまり誠実さを感じません(チャートの期間が異なるので注意してください)。
オンチェーンから分かる戦略としては、狭いレンジを指定してILを受け入れながら高い手数料を稼いでいます。
また、一度レンジを設定した後はレンジを外れるまでリバランスしないことでILを先延ばししておりレンジ相場に強い戦略と言えます。
3. Popsicle Finance(Sorbetto Fragola)
Popsicle Financeは元々クロスチェーンでの流動性を管理するプロダクトで、6/26にv3の流動性を管理するSorbetto Fragolaをローンチしました。
リバランスの方法:アクティブリバランス
レンジ:TWAPを中心に、開発チームが指定するレンジ幅
手数料:手数料収入の10%($ICEのバイバックに使用)
提供するVaultの1つであるUSDT-ETHのレンジの推移を示したのが次のチャートです。Sorbetto Fragolaはアクティブリバランスのため、レンジは常に1つです。
どのようにレンジ幅を決定しているかは分かりませんが、幅の広さとしてはCharmとVisorの中間ぐらいとなっています。 まだローンチしたばかりですし、戦略について固まっていないかもしれませんが、リバランスごとにスワップの手数料がかかってしまうためリバランスの回数を少なくする方向性ではあるようです。
HP:https://popsicle.finance/dashboard
4. Harvest Finance
また、ご存知な方も多いと思われるHarvest Financeも実はUniswap v3のVaultを提供しています。 一方、このVaultはリバランスを行わず、手数料の収集及び複利運用のみを行うため、本記事で取り扱うVaultとは少し系統が異なります。
ちなみにレンジが大幅に動いた場合には、開発者が異なるレンジのVaultをデプロイし、それに納得したユーザが流動性を入れる…という形をとっています。
以降は、まだ(ユーザが主要なプールで使えるように)ローンチされていないプロダクトの紹介になります。
5. Gelato Network(G-UNI)
Gelato Networkによって提供されるG-UNIは、現在InstaDappのガバナンストークンINST-ETHの流動性供給の管理及び流動性マイニングに利用されています。
それ以外のペアについては、今後、同様にGelatoが提供するSorbet Financeで利用できるようになる予定です。
リバランスの方法:アクティブリバランス
レンジ:開発者が指定したレンジ(ちらっとMediumに書いてありますが詳細は不明)
手数料:手数料収入の10%
Gelato Networkに関しては以前記事を書きましたが、スマートコントラクトを実行するボットのネットワークを目指しており、今回はそのボットがリバランスを実行しています。 vividot-de.fi
ちなみにリバランスのレンジに関してチームに聞きましたが、まだ詳細なドキュメントはなく、そのうちアナウンスするとのことです。
リバランスのTXと価格推移を追って推測できなくはないと思いますが、辛いのでやりません。
HP:https://defi.instadapp.io/inst-pools
6. Aloe Capital
Aloe Capitalは「自律的なクラウドソーシングによる流動性配分プロトコル」を謳っています。
Aloe Capitalの基本的なアイディアは予測市場を用いたリバランスのレンジの決定です。
ユーザは「流動性供給者」と「ステーカー」の2つに分けられます。もちろんVaultを利用して放ったらかしで手数料を稼ぎたい人が「流動性供給者」です。
では「ステーカー」が何をするかと言うと、Aloe CapitalのガバナンストークンAloeをStakeして対象の資産の価格を予想します。 そして、リバランスのレンジはステーカーによる予想を集約し決定されます。また、ステーカーは予想が当たれば報酬としてStakeしているAloeが増え、外れるとAloeが減少します。
興味深い点は、従来の価格予想はゼロサムゲーム(場代を考えるとマイナスサム)であるのに対し、Aloe Capitalの場合は手数料収入の一部を受け取ることでプラスサムゲームになるということです。
リバランスの方法:パッシブリバランス
レンジ:ステーカーの価格予想の集約
手数料:手数料収入の17.5%(プールごとの積立金に7.5%, 開発や運用に5%, ステーカーへ5%)
他にも片面流動性となってしまった部分のリバランスを促進するために「ダッチオークション」や「Liquidity Sniping:ボットによって大口購入TXに片面流動性をぶつける」が検討されています。
懸念点として「ステーカー」として価格予想を行うユーザが十分にいないと成り立たないため「流動性供給者」が集まらない、「流動性供給者」が集まらないため「ステーカー」が集まらない、といった負のスパイラルによってプロトコルが動作しない可能性が考えられます。
7. Lixir Finance
mediumへの構想の投稿はたぶん一番早いのですが、執筆時点においてはまだローンチされていません。
コントラクトは既に実装済みかつ監査も通っているため、そろそろローンチされるとは思われます。
また、既にガバナンストークンであるLIXのセールを行っておりプライベートセールで170万USD、LBPで327万USDを調達しています。 ちなみに、LBPの最終販売価格は$8.03でしたが、ベアマーケットの影響やローンチの遅延などによって現在$4程度に低下しています(プライベートセールは$1.53)。
実際に動いている物がなくソースコードのリバランス周辺をざっと見た感じ、戦略は以下のようです。
(Mediumで言ってる仕組みと実装が違う気がするので保証はしません。)
リバランスの方法:パッシブリバランス
レンジ:TWAPを中心にしたレンジ + 現在の価格での片面レンジ
手数料:可変のため不明($LIXのバイバックに使用)
8. Mellow Protocol
Twitterは凍結されており、Telegramも書き込みが禁止のため、今ある情報は公式HPに書いてある「Mellow protocol is UNI V3 liquidity providing optimization solution. 🧑🌾 Provide your liqudity and earn high returns.」とホワイトペーパーだけです。
ホワイトペーパーを見ると「Uniswap v3上で実現する金融デリバティブ」を目指しており、その最初の段階としてレバレッジ流動性供給(原文:leveraging LP-ing)を実装するとしています。
レバレッジ流動性供給と冒頭の流動性提供最適化(liquidity providing optimization)は、微妙に意味が違う気がするので、方針転換した可能性はあります。
ホワイトペーパーの数式は追っていませんので、興味がある方は是非見てみてください。
HP:https://mellow.finance/vault
8. Sommelier Finance
Sommelier Financeはユーザがv3に流動性を追加しやすくなるインターフェイスを提供しています(流動性を供給する際にレンジに合わせてスワップしてくれるなど)。
今の所インターフェイスでしかないので、レンジから外れた場合にはユーザが自身でリバランスを行う必要がありますが、今後Sommelierを用いてリバランスを自動化する予定とのことです。
Sommelierについては、HPを参照してください。
9. Steer Protocol
ドキュメントもホワイトペーパーも何もないのですが、Steer Protocolというプロダクトは先日SushiswapのSushi Incubatorに選ばれました。
プロダクトをざっくり説明すると、ユーザが任意のDeFiを利用する戦略の作成・戦略への参加・戦略の実行が行えるといった感じです。
その戦略の1つとしてUniswap v3のAutomated Liquidity Managementが紹介されています。
正直プロダクトが壮大すぎてポシャりそうな予感しかしないのですが、Sushi Incubatorに選ばれたこともあって今後に期待です。
最後に
以上、Uniswap V3 LP Vault (Automated Manager) 完全攻略でした。
v3の発表時、集中流動性で手数料XXX倍!みたいな話がありましたが、現実は甘くなくILを考慮すると主要なプールではv2よりパフォーマンスが悪いと感じています。
そのため、v3に流動性を供給しようと思うと主要プールでVaultを利用するか、マイナープールを開拓して手動メンテの2択かなと筆者は考えています。
また、現在v2を超えるパフォーマンスを出しているのは広いレンジによってout-of-rangeしていないLPです。しかし、一度ETHが上下に大きく変動してレンジを外れた場合パフォーマンスはv2を下回る可能性があります。 それにVaultのようなサービスが増えてくると、流動性の山の中央が現在の価格に追従してくるため、今後広いレンジというのは相対的に得られる手数料が減少します。
一方、本記事で紹介したVaultもパフォーマンスが思うほど高くなっていないのが現実で、入れておけばお金がいっぱい増える訳ではありません。 実際にDuneAnalyticsを用いてパフォーマンスを計算してみると、どこのVaultも戦略の違いはあれどILに苦しんでおり、期間によってはv2のLP(LP Feeの考慮なし)の方がパフォーマンスが高い場合もあります。
最後に「じゃあ実際Vaultを使うとしたらどこを使えばいいの?」という話ですが、直近の短いスパンでパフォーマンスを比較するとCharm>Fragora>Visorのように見えます。
もちろん断言はできないのですが、ここからパフォーマンスでは考慮していない手数料も引かれるため、概ねこの順番だと思います。
また、一部のVaultはHP上でILの存在を完全に無視した高いFee Based APRを表示していて誠実ではなくオススメしがたいのが現状です。
パフォーマンスはもっと長いスパンで見る必要があるので、今後も注視していきたいと考えていますが、これまでの結果を見るとレンジが広い方がパフォーマンスが高いというのは興味深い結果です。
P.S.
筆者が一番気になっているのはAloe Capitalですが、ILを考えるとレンジをぴったり当てればいいという訳でもなく、そこらへんをどう実現するのか気になっています。